表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ボクが彼女に招かれたワケ

作者: 西禄屋斗

「どうぞ」


「お、お邪魔します」


 ボクは少々、緊張しながら玄関をくぐった。


 何しろ、女の子の家に遊びに行くなんて、生まれて初めての経験である。ボクは心臓の鼓動が早くなっているのを自覚していた。


「ウチ、共働きで兄弟もいないから、そんなに緊張しないで」


「えっ?」


 彼女はボクの緊張をほぐすつもりで言ったのだろう。でも、ボクはそれを聞いて、今度は別の意味で緊張してしまった。女の子と──それも飛び切り可愛い美少女と二人きり。ボクはいけない妄想をついつい思い浮かべてしまう。


「ねえ、ケーキ食べる?」


「う、うん」


 ボクを自分の部屋へ通すと、彼女は笑顔を残して、ケーキの準備をしに行った。その間、ボクはジッとしていることも出来ず、彼女の部屋の中をそわそわしながら眺める。当然のことだけど、やはり女の子の部屋だけあって、きれいに片付いていた。おまけに、何だかいい匂いがする。


 それにしても、どうして彼女はボクなんかを家に招いたんだろう。自分で言うのもなんだけど、ボクはこれまで女の子と親しくしたどころか、会話したことすらない。学校では誰もがボクのことを嫌っていると思っていた。


「お待たせ」


 やがて、彼女はトレイに紅茶とケーキを乗せて戻って来た。


 でも奇妙なことに、紅茶は二人分が用意されているにもかかわらず、ケーキは一皿しかない。まさか二人で半分こするとか?


「どうぞ」


 彼女はボクにケーキが乗った皿を手渡した。ボクはそれを受け取りつつも、


「キミの分は?」


 と尋ねた。すると彼女は首を横に振る。


「私はいいから」


「でも……」


「ケーキ、あんまり好きじゃないの。気にしないで食べて」


 彼女のスラリとしたスタイルからしても、特にダイエットをしているとは思えなかったが、せっかく勧めてくれているので、ボクはフォークを手に取り、ケーキをひとかけら、口に運んだ。


 それを見ていた彼女の喉が、ゴクン、と鳴った。ボクは思わず手を止める。


「やっぱり食べたいんじゃない?」


 ボクは彼女に言ってみた。それなのに彼女はやっぱり首を振る。


「ホント、私はいいから」


 そう遠慮はしているが、ボクに向けている笑顔は無理をしているようにしか見えない。ボクはケーキを皿ごと、彼女の方へ突き出した。


「そんな、無理に我慢しなくていいよ。食べたいときに食べればいいじゃないか」


 ボクは、ちょっと語調が強すぎたかな、と言ってから後悔したが、それが向こうには真摯な気持ちとして伝わったらしい。彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「本当にいいの?」


「ああ」


「本当に我慢しなくてもいいのね?」


「もちろんだよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 彼女はケーキを差し出すボクの腕を握った。そして──


 ガブッ!


 いきなり彼女は、ボクの腕に噛みついてきた。


「うわああああっ!」


 ボクは激痛に悲鳴をあげ、ケーキが乗った皿を落っことした。それにも構わず、彼女はボクの腕の肉を完全に食いちぎる。そして、クチャクチャと音を立てながら、美味しそうに咀嚼した。


 そのときの彼女の満足そうな笑みと言ったら――


「やっぱり私、ケーキよりもこっちの方が好きだわ。ずっとあなたのこと、美味しそうだなって思ってたの。では遠慮なく――いただきます」


 ボクが彼女に招かれたワケをようやく悟った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ